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■美術 藤原優子展 -water-        

 

著者:森村陽子, 中日新聞(夕刊), 7.12.2007

白いさざ波が、四角い画面の中でさらさらと流れる。画面に近づくと、波間の影は薄くなり、やがて、視界は真っ白になった。かげろうのようにとらえどころがなく、はかなさを感じさせる作品だ。

藤原は多摩美術大日本画科を卒業。初めは白い紙に群青の岩絵の具でのびやかな人物像を描いていたが、次第に興味は「白」色に。蜜蝋やガラスなどさまざまな素材に挑戦しながら、広がりのある白色の表現を追求してきた。

今回の「water」の連作=写真=は表面を波立たせて白いウレタン塗料を吹きつけた木の板の周りを透明のアクリル板で囲んでいる。木とアクリル板の間隔は数ミリ。アクリル板の表面にも紙ヤスリで筋がつけられているため、すき間に入り込んだ光が上下の凹凸にはじかれ、響き合って微妙な陰影をつくり出している。

「変わらないけれど変わっていく。平面だけど映像的な作品をつくりたい」と藤原。奥行きのある白い画面は、変幻自在な水のように、砂浜や稜線、雪原などの大自然をイメージさせて心地良い。

一九六八年、東京生まれ、在住。

 

※この記事は、中日新聞社の許諾を得て転載しています

ぐるり展覧会 藤原優子展 -water-

 

著者:日沖隆, 名古屋タイムズ, 7. 17. 2007

 

藤原優子の今回のテーマは「水」。しかし、ただ水面を再現しているのではない。

ギャラリーには透明なアクリル板を通した綿のような水流画面が並ぶ=写真は会場=。

かすかなグレーの陰影が生み出す白い「水」の隆起。斜めに、水平に、穏やかで、時に速い直線や曲線は、まるで音を遮断したような静けさをたたえている。その清潔なシンプルさは神秘的ですらあり、心を優しく包み込んでくれる。

藤原は多摩美術大学日本画科を卒業。ポーラ美術振興財団の助成でニューヨークに1年滞在。フィリップモリスアワード2000最終審査展などに出品。期待の若手だ。

日本画出身だが、色を乗せて描く意識でなく、みつろうを浸透させて影を作り出すなど、支持体からイメージを現出する表現を求めてきた。

今回の「water」も支持体は10-24ミリメートルの木板。その厚木に波紋の彫刻を施し、白を吹き付け、ヤスリをかけて磨く。削りの凹凸に当たる光の屈折で陰影が生み出される。

表装のアクリル板にもヤスリの直線的痕跡が与えられ、下の凹凸と呼応。水という透明な自然生命が環境、時間、光の強弱で変化する。その多彩な見え方を支持体構造の方法論に結び付けて獲得しようとしている。

作家は1968年東京生まれ。

 

※この記事は、著者の許諾を得て転載しています